第33回多田謡子反権力人権賞受賞者選考理由

2021/11/16

● 差別排外主義に反対する連絡会  (差別・排外主義との闘い)

 2009年に起きた、埼玉県在住のフィリピン人一家を「追放しろ」という嫌がらせのデモは、「在特会」ら「行動する保守」を標榜する差別・排外主義勢力の存在を浮き彫りにしました。多くの人たちが危機感を抱き、街頭とネットで勢力を拡大する彼らへのカウンター行動が取り組まれるなかで、2010年7月、差別・排外主義に反対する連絡会が結成されました。メンバーに若い人はあまりいません。だからと言って、〝それがどうした!〟という気概が一人一人の身体に一杯詰まっています。集会やイベントの防衛では圧倒的多数に対して毅然として立ち向い、継続してきたデモ行進では、今は「コロナ禍に乗じたヘイトをやめろ!」という横断幕が掲げられています。一人一人が別に闘いの場(沖縄、野宿者、原発など)を持ちながら、この連絡会に参加しています。
 今の社会状況の中、ヘイトにさらされる人々の側に立ち、共に立ち向かっていこうとする者の存在は貴重です。共に考え、共に闘っていく中でこそ、未来を見通す相乗的な関係を拡げていくことができるでしょう。
 しっかりと地に足をつけて非暴力で闘い続ける、差別・排外主義に反対する連絡会に多田謡子反権力人権賞を贈ります。

● フジ住宅によるヘイトハラスメント裁判・原告と支える会
                  (社員へのヘイトハラスメントに働きながら反対)

 在日韓国人3世の原告女性が、東証一部上場の大手不動産会社「フジ住宅」の子会社に非常勤採用されたのは2002年でした。「パートにも福利厚生の行き届いた働きやすい職場」は、親会社に吸収されて以降、激変していきます。会長名の社内文書に「日本人の誇り」などの言葉が頻出、それはヘイト本などのコピーへとエスカレート。会長の号令で、自治体教委に育鵬社教科書の採択を求める運動までなされましたが、正社員は沈黙。むしろ賛同や礼賛を会長に提出する者が現れ、それらは社内文書として配布されました。
 労基署に行くも「表現の自由」と門前払い。弁護士を立てて配布停止を求めるも無視され、上司からは退職を「提案」されました。止む無く彼女は2015年8月、会長と会社に損害賠償を求めて大阪地裁堺支部に提訴。一審は人格権侵害などを認めて両被告に110万円の賠償を命じましたが、裁判は係争中です。勝訴後もやまぬ誹謗中傷のなか、社内に留まりながら、まだ認知度の低いレイシャルハラスメントの違法性や、全人格的隷属を自明とする「企業風土」を問い続ける原告と、署名や街頭宣伝などを通して彼女と共に闘っている「ヘイトハラスメント裁判を支える会」に、多田謡子反権力人権賞を贈ります。

● 桜井昌司さん  (冤罪との闘い、冤罪被害者救援の闘い)

 桜井昌司さんは1967年8月に起きた殺人事件で杉山卓男さんとともに茨城県警に逮捕されました。物的証拠はなにもなく、別件で逮捕した警察の違法、苛烈な取り調べで「自白」を強要された二人は、裁判で「自白を強要された」と訴えましたが、無期懲役が確定しました。
 29年間投獄された後、仮釈放された二人の請求にもとづき再審が開始、2011年水戸地裁は再審ですべての状況証拠の信用性を否定する無罪判決を出して確定しました。再審無罪のために二人は44年間闘わねばならなかったのです。無罪確定から4年後に杉山さんは逝去されました。桜井さんの提訴した国家賠償訴訟では、本年、2021年8月、東京高裁が茨城県警と水戸地方検察庁双方の違法捜査を認め、逮捕、起訴からの全期間の損害賠償を命じる判決が確定しましたが、証拠を偽造、捏造、隠蔽した警察・検察はいまだ桜井さんに謝ろうとしていません。
 雪冤を果たした後も、桜井さんは冤罪と違法捜査をなくすため、取り調べの可視化を求め続け、とりわけ全国を飛び回って、今も冤罪で苦しむ人びとを励ます活動を続けています。冤罪を生む社会を許さず、重い病をおして、冤罪を生まない社会のために闘い続ける桜井昌司さんに多田謡子反権力人権賞を贈ります。

● ヘリ基地反対協海上チーム  (辺野古新基地反対闘争)

 沖縄は、日本への復帰(1972年)から来年(2020年)で50年目を迎えますが、復帰後も沖縄本島の重要な部分に「米軍基地」が存在し続け、日米安保条約と地位協定」は、沖縄の住民を脅かし続けてきました。
 2012年以来、自公政権は最も危険な沖縄県宜野湾市の普天間基地を県内名護市辺野古に移転するという口実で、辺野古米軍新基地建設を強行してきました。彼らは埋立工事を強行して大浦湾の自然を破壊し、外洋部での地盤の軟弱さが明らかになって、建設は無理とわかっている今も工事を強行しています。こうした中で、しゅんせつ・埋立のための土砂運搬のダンプに抗議して、陸上では各ゲート前での抗議行動が、海上ではカヌーによる海上運搬への抗議が続いています。今年4月には、海上保安庁による不当な規制によってカヌーの艘者1名が重傷を負うという事件がおきました。
 コロナ禍の中でも、海上チームは、カヌー艘者とそれを支える海上船、送り出す地上での支援が一体となって闘い続けています。辺野古新基地建設を阻止するために、不当な規制・弾圧をはねかえして活動を続ける新基地反対協海上チームに対して、心からの敬意を表し多田謡子反権力人権賞を贈ります。