多田謡子反権力人権基金について

多田謡子反権力人権基金運営委員会
1990/10

 本基金は、1986年12月18日、29歳の若さで夭折した弁護士・多田謡子さんを記念し、その遺志を将来に生かすために、謡子さんの遺産に有志のカンパを加えて、1989年6月13日設立されたものです。毎年、謡子さんの命日である12月18日前後に、国家権力をはじめとしたあらゆる権力に対して闘い、人権擁護に尽くした団体および個人を顕彰して賞金を贈呈するとともに、受賞者の講演会を開催して、人権擁護に関心ある人々と広く交流していくことを、主たる目的としています。
 1989年12月17日には、第1回受賞者として徐兄弟を救う会事務局長の西村誠氏、沖縄国体で日の丸を焼き捨てた知花昌一氏、女性解放と人権擦護の活動を担っているフィリピンの女性組織ガブリエラの1団体2人を迎えて、受賞式及び講演会を開催し、約70名の人々に集まっていただきました。
 多田謡子さんは1985年4月に弁護士登録をして以降、1年9ヵ月足らずの短い期間に、数多くの反弾圧活動、人権擁護活動に弁護士として関与しました。三里塚闘争、浅草橋事件、連続企業爆破事件等の刑事裁判や、女性労働者の解雇撤回要求、違法検問に対する国家賠償請求等の民事裁判はもちろん、大衆集会における違法な検問・所持品検査やデモ行進の際の過剰警備等に対する監視・抗議活動等、謡子さんは国家権力をはじめとした権力から弾圧され抑圧されている人々の側に立って弁護活動を行いました。彼女はあらゆる権力的な規制を嫌い、真に平等で自由な社会を求め続け、自分自身の生き方においても常に自分の敵を明確にしこれと闘い続けました。  多田謡子さんの弁護活動は人間味にあふれ、彼女と関わった多くの人々の信頼と共感を得ました。また、彼女の真撃な生き方は彼女の弁護活動をさらに魅力的なものにしていたのです。本基金は、多田謡子さんの人間的共感に満ちあふれた弁護活動が、志半ばにして途絶えたことを惜しむ有志によって設立されました。彼女の志が私たちにとって普遍的な質を有するがゆえに、不正を憎み権力と闘う心ある人々の中に、必ず本基金は根づいてゆくことと思います。
 第1回受賞者として14団体16個人の候補者の推薦が寄せられましたが、いずれの候補者も多田謡子さんならきっと共感をもって関わったであろうと思われる方々ばかりでした。これらの候補者の方々の闘いを支える人々の輪が大きく広がることを彼女は望んだことでしょうし、本基金はこの人々の輪の結び目の一つとなることを望んでいます。多くの方々が多田謡子反権力人権賞の候補者を推薦して下さり、また本基金に御参加下さるよう心からお願いするものです。